勝手に・シネマ・パラダイス/第13話『映画館の売店でたくさんのドラマが生まれたの巻』

前回の第12話より、私が大学生の時にしていた映画館の売店でのアルバイト時代の思い出話をさせていただいております。お恥ずかしい限りで恐縮です(苦笑)。これまでは、懐かしい映画館の思い出をお話してきたのに急にこんな展開となり、私的映画遍歴が“過ぎる”こととなってしまいました(苦笑)。時代は1990年代後半、今も語り継がれる数々の名作、大ヒット作が連発した奇跡的な時期でもありました。その頃の映画館の雰囲気を少しでも感じていただければ嬉しいです。ご興味いただけたらぜひ読み進めていただけると幸いです。

前回、劇場売店のアルバイトを始めてすぐに『インデペンデンス・デイ』の先々行オールナイト上映にて、劇場売店の洗礼を受けたわけですが、その後のオールナイト上映は必ず勤務に入りました。大変な思いをしたはずなのに、深夜に映画館がお祭り状態という異様な光景がいたく気に入ってしまったのです。最近は、オールナイト興行はすっかりなくなりました。あるとすれば深夜0時からの最速上映くらいでしょうか。2000年代初頭までは毎週のように土曜日はいろんな劇場でオールナイト興行がされていました。私が入る前からもちろんオールナイト興行は行われており、先輩から過去のオールナイト興行の話をたくさん聞きました。その中から忘れられない話を2つお話し致します。

時は、1994年。その年、ある映画が全世界的に記録的大ヒットをしました。その映画とは、キアヌ・リーブス主演『スピード』です。ご覧になった方も多いと思います。本当に面白い映画です!もちろん『スピード』も先々行オールナイト、先行オールナイトをしたそうですが予想以上の大ヒット。そして初日土曜日は朝から満席連続で、そのまま初日オールナイトもずっと満席続きだったそうです。本来ならオールナイト興行は、深夜3時頃からが最終回上映のはずですが、この時は深夜にもかかわらずあまりにもお客様が続々と劇場へと来られるので急遽早朝5時と7時の2回追加をしてそのまま日曜日の上映に突入したそうです。そうです、24時間上映です(笑)。バスだけではなく映画館もノンストップだったわけです(笑)。しかも、1000席の北野劇場がほぼ満席というのですから驚き以外ありません。

そしてもう一つのお話は、時は1995年。この『勝手に・シネマ・パラダイス』でも私の人生を変えた1本として『ダイ・ハード』のことを書かせていただきましたが、『ダイ・ハード』はその後シリーズ化されて、この年に最新作『ダイ・ハード3』が公開されました。大ヒットシリーズなので、もちろん先々行オールナイトは行われたのですが、意外にもお客様はパラパラと拍子抜けするほど少なかったそうです。おかしいと思ったら、その日、夜の9時からテレビの『ゴールデン洋画劇場』で『3』公開記念として前作の『ダイ・ハード2』が放映されていました。そのことを知った当時のスタッフたちは「それやったら来週の先行が多そうやなぁ。今夜は暇になるなぁ。」と思ったそうです。そして、時刻が夜の11時を回った頃、ナビオの8階のエレベーターからポツポツと人が降りてきました。そして、それまで静かだったエレベーターが急に動き出し、エレベーターの扉が開くたびに降りてくる人数はどんどん増えていき、いつしかエレベーターの扉が開くたびに大勢の人々が劇場になだれ込むように押し寄せてきたのです!時間は夜の11時半。そうです!テレビで『ダイ・ハード2』を見終わった人たちが一斉に深夜の『ダイ・ハード3』のオールナイト上映に大挙して駆けつけたのです!それまで、「暇だなぁ」とのんびりしていたのが僅か30分足らずで一気に戦場へと変わったそうです(笑)。夜のテレビ放映が終わった後に劇場に駆けつけるって凄いですよね(笑)。当時は、ネットカフェはおろか深夜営業のお店もそんなにありませんでしたし、あるとすれば近くにスーパー銭湯『大東洋』があるくらいです。見終わった方々は、一体どうやって帰ったのでしょう(苦笑)。この当時は、話題の映画を誰よりも先に見るのは、映画ファンだけではなく世間一般的な定番イベントだったと思います。

オールナイト興行は忙しく、でも深夜という時間帯も相まって実はとても楽しい仕事でした。しかし、深夜と言うことで、丑三つ時の深夜らしい出来事もありました。夏はまだもう少し先ですが、一足早くこんなお話をさせていただきます・・・。

あれは、『リング2』の初日オールナイトのことでした。場所は梅田劇場です。Jホラーという新しいムーブメントを作った『リング』の続編です。貞子という新たな強烈なキャラクターは、日本中を震え上がらせました。その続編が『リング2』です。そんなホラー映画のオールナイト興行の日に、私は仲の良い同僚と梅田劇場で勤務をしておりました。しかし、その日はそんなに忙しくなかったので、その同僚と『こんな貞子は嫌だ』という大喜利をして遊んでいました(苦笑)。時間は深夜2時過ぎでした。二人でバカみたいにゲラゲラ笑っていたら、パタンッと音がしました。何だろうと思ってショーケースを見ると『リング2』のテレホンカードが倒れていました。当時はまだ携帯電話がそんなに普及していなかったのでテレホンカードは人気商品だったのです。同僚が、ショーケースの中の倒れているテレホンカードを元に戻そうとしたのですが、私はその倒れ方を見て、「あれ?おかしいな?変だな?」と心の中に稲川淳二の声が聞こえてきました。下記の写真はその時のテレホンカードの販売を再現した写真です。三角形の台の表面にテレホンカードの見本を貼り付けていました。上の写真が倒れる前、下の写真が倒れた後です。

なんか、おかしいと思いませんか・・・?風が吹いたとしても三角形の台が前に倒れるでしょうか?風の力で前方に移動したならなんとなくわかります。しかし、倒れるのはどうも不自然と思いませんか?そもそも、劇場売店の中でそんな倒れるほどの強風は吹きません。私は同僚に、「この倒れ方、・・・おかしくない?」と聞いたその瞬間です!突然、ショーケースのガラスがガタガタガタッと大きな音を出して震えだし、売店内の電気がバチバチバチッと点滅をして、ジュースの機械とタンクを繋ぐホースがポンッポンッと勢いよく2本も抜けたのです!もうビックリして、急いで売店から飛び出し、近くにいた劇場スタッフに「今、地震あった?」と聞いたら「いや、ないですよ」との返事。それを聞いて全身鳥肌がゾワーッと立って、急いでポスターに向かって全力の土下座をしました(苦笑)。抜けたジュースタンクのホースを見ると、タンクとホースを繋ぐ爪の部分がありえない方向にグニャっとねじ曲がっておりました・・・。これは本当に怖かった・・・。皆さんも大喜利をする時は、ネタにはくれぐれもお気をつけください・・・。

またある時はこんなこともありました。オールナイトは基本的には男性アルバイトが勤務に入ります。その日も私と同僚の2人で勤務に入り、一緒に勤務に入った彼はとても真面目な男でした。何の映画だったか忘れましたが、その日はとても暇でした。すると、警備員の方が、「売店さんは深夜でも女性の方も働いて大変ですね」と話しかけてきました。「え?僕らだけですよ」と答えると、「あれ?おかしいな。売店さんじゃないのかな?」と言うので、話を聞くと、先程から売店の前に黒い服の女性がずっと立っていたのでてっきり売店スタッフと思ったらしいのです。ロビーには、私たちと劇場スタッフと警備員さん以外は誰もいません。少なくとも私の目には誰も見えていませんでした。私は「見間違いじゃないですか。今日は暇だからお客さんも誰も見てませんよ。そうやなあ?」と隣にいた同僚に話を向けたら、彼が真顔でこう言いました。

「え?さっきまでずっとお前の目の前に立ってたやん。」

これはすべて実話です。まあ、深夜の映画館は本当にいろんな方が来られるものです(苦笑)。劇場売店の思い出話がちょっと方向が逸れてしまってすいません。次回からは元に戻します。次回、第14話は『忘れられない1997年の出来事の巻』です。

6月1日(火)より営業再開を再開致します。また皆様と当館で再会できることを楽しみにしております!それではまた・・・。